【完】さつきあめ〜2nd〜
わたしの膝の上から顔を上げて、真剣な顔でこちらを見つめてきた。
マザコン、というか。
朝日の女の人へ求めている愛情っていうのは、きっと母性に近いのだと思う。
小さな頃から母性の欠落した家庭で育ってきて、実の母親を物心つくまえに亡くしているのなら、その気持ちは少しは分からなくもないけれど。

朝日はわたしの膝の上で眠ったまま、真っ白な天井を見つめた。

「俺は母親が許せなかったんだと思う。
自分を育てることなく死んでいった母親が。
だけど同時に母親ってのを強く求めていた気がする。だから付き合う女に母親を重ね続けたのかもしれないな。
こんな俺だから結婚なんて考えた事もなかったけど
俺はお前と結婚したい」

結婚したい。真剣な顔をして改めて見つめられると、朝日の与えられなかったすべてのものを与えたくはなるのだけど。

「もぉ~…軽々しく結婚なんて言わないでください~!」

「軽々しくじゃねぇよ。付き合ってきた女誰ひとりとして結婚したいなんて言った事ねぇぞ。
むしろ結婚は出来ねぇって言い続けてきたんだから」

そんな朝日が、選んでくれた女がわたしであるのなら、それ以上に嬉しい事なんてない。

「でも、お前は、皆が言う通り少しだけさくらに似てるところはあるよ」

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