【完】さつきあめ〜2nd〜
「もったいない…」
「本当にもったいないわ。大学行きながら働く事だって出来たろうに」
「あたしは、ふたつの事を同時に出来るほど器用ではないんです。
それに、いまの自分にしか出来ない方を優先したんです。
大学自体も母親に言われた通りのところを受験しただけですし……」
特別に何かをやりたいとか、何かになりたいとか、そういった目標があったわけじゃなかった。
わたしの18年は、母親の言うように勉強して、母親の望む大学を受けただけ。でも受けた後、それが本当に自分のしたかった事なのかと気づいたのか。
久保がまじまじとわたしの顔を見つめ、真面目な顔をして言った。
「けれど、学歴はあって損はしないと思うけどね」
小笠原も同じ事を言っていた。
最初はその言葉の意味が分からなかったけど、今は少しだけその意味も分かるような気がする。
学歴があれば、将来自分のやりたかった物への幅は大いに広がるだろう。そういう意味では行けるものならば、行って何も損はないのだ。
少しだけ大人になった今なら分かる。けれどあの頃は母親の敷いたレールの上を歩いていくのが嫌だった。
とはいえ、今現在自分の選んだ道に対して後悔はしていない。
他の業種に比べて、この世界は圧倒的に中卒の人間が多い。けれど、彼女たちには人より早く社会に出ているという社会経験があって、知識もあったり、同じ年代の子では経験出来ないような事を経験してたりする。
だから学歴の有り無しで人間の事を判断するという事はしない。