【完】さつきあめ〜2nd〜
光はいつだって笑っていて、誰からも好かれる人。
さっきからずっと視線が合わせられない。
顔は正面を向いていて、トリガーのボトルが並ぶ棚に向けられているのに、視界には光の顔が入ってくる。
変わらない笑顔。強い眼差しで真っ直ぐにわたしを見ている。
けれど、わたしは光の顔を直視出来なかった。

騒がしい店内の中で、グラスを持つと揺れる氷のぶつかり合う音だけが妙に響いている気がする。
ふと視線を横に向けると、ばっちりと光と目が合ってしまった。

「何かごめんなー、南が余計な気を使ってて」

「ううん…。南さんとはこの間少しだけ会ってお話をして…」

「あぁ!SKYで会ったって!
夕陽がホストクラブなんて行くわけないって南に言ったけれどまさかね」

「あ、あれはレイさんと一緒に行ってて…。それにちょっとあそこのホストクラブでお世話になってる人がいて…ただそれだけだよ」

…って、何言い訳しているのだか。
光の前でこれでもいい顔をしたいのだから、そんな自分に呆れてしまう。
どう思われたっていいはずなのに。

「分かってるよー。夕陽がホスト遊びなんてするような子じゃないって事は
それに何か南が余計なおせっかいしたみたいだけど、何も気にする事はないんだからね」

「光……本当にだいじょうぶ??」

そう再び尋ねたら、少しだけ光の表情が曇った気がする。
けれどすぐに笑顔を取り繕って、いつも通りの光に戻る。

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