【完】さつきあめ〜2nd〜
「夕陽に心配されるなんて参ったな。昔は俺の方が心配する側だったのに」
「うん…。そうだよね。
あたしいっつも光に心配かけてたよね」
光だけはずっと光のままでいてほしい。
わたしが大好きだった、王子様みたいに完璧な光。
優しくて、周りの事ばかり考えて、いつも自分の事は後回しにしてしまう。
けれど、光が光らしく生きているのなら、光はずっと我慢したままなのかな。
小さな頃のように、自分の幸せを後回しにして、他人の幸せばかり考えてしまうのかな。それは光にとって酷な事ではないのだろうか。
ビールグラスに口をつけた光は真っ直ぐ前に視線を移して、呟くように言った。
「夕陽、宮沢さんと付き合ってるんだろ?」
心臓が上下に忙しく動いていく。
一気に体中の体温が上昇していって、バクバクと音を立てる胸を思わずおさえてしまう。
おさえた左手が小刻みに震えているのが分かる。
それは紛れもない事実。どこから耳に入ったっておかしくはない。弁解する権利だってない。
「うん……」
「良かった!お前が幸せそうで!
あの人はああ見えてもちゃんと女を幸せにする人だし、俺から見たら夕陽の事は本気で好きだと思うから、何も心配はないよ!!
夕陽も俺に気なんか使わなくていいんだからな!!」
「光……」
光がこちらを向いて、いつも通りの笑顔を向ける。でもその後少しだけ下を向いた。