【完】さつきあめ〜2nd〜
「夜の始まりを告げる夕陽なんかより
朝の始まりを告げてくれる’朝日’が好き…」
「夜の世界に生きてるのに、変な話だな」
「ほんと、変な話」
「あぁ…でも俺の亡くなった母親もさくらと同じ事を言ってたらしいよ。
親父から聞いた話だから、確かじゃないんだけど
風俗の世界にどっぷり浸って生きていた人間で、朝の光りなんて見た事もなかったような人だろーに
朝日が好きだったんだって。だから俺の名前を朝日にしたらしい」
初めて愛した人。誰よりも求めていた人。
してほしかった事が沢山あった。けれど何ひとつ与えてくれずに死んでいってしまった人。
真っ白な小さなカスミソウが目を閉じたら浮かんできた。
「だからなんだって話だけど。
じゃあな」
「あなたの…朝日の…お母さんがどんな人だったかなんてあたしにはわからない。
けれど…きっと…愛されていたよ…」
朝日と名を呼ぶことさえ、してあげられなかった。
顔さえ見ずに、荷物を持って歩きだした。だから朝日がどんな顔をしたのかなんて見えなかったし、見れなった。
多分ずっとそうだった。