【完】さつきあめ〜2nd〜
「立てるか?
立てるならリビングで座ってな。
いまお茶でもいれるから」
光はずっと笑っていたし、優しかった。
それがますます胸を痛くする。
…光にだけは甘えてはだめだと思っていたのに…。結局光を頼ってしまった。
ゆっくりと立ち上がりリビングに行くと、初めて見る光景に辺りを見回した。
大きくて、綺麗なマンション。まるで朝日が住んでいるマンションのようだった。…いつの間にか引っ越ししていたんだ。
シンプルな物が好きだった光らしくシンプルな黒の家具が置かれていたけど、見るだけでそれが高級品だっていうのが分かった。
でも高そうなスーツを脱いで、部屋着に着替えた光は昔のままのように見えた。
「光…引っ越ししたんだね」
「あぁ、まあな。
けど落ち着かねぇな。何かこういうマンションに住んだり、高い物買ってもあの人の真似してるだけみてぇだし
何かあんまり性に合わない。
思ってみたら、夕陽と同じマンションに暮らしていた頃の方が幸せだったような気もするよ」
わたしも。そう言いかけて止めた。
光と同じマンションで、シーズンズで過ごした日々。どんなに幸せを掴んでも、あの日々たちを忘れる事は出来ない。
あの時のように曇りなき気持ちで過ごせる日はきっともう戻らない。けれど、戻らない日々だからこそ、こんなに愛おしく思えるのだろう、といまでは思う。
けれど、あの日の自分にしがみついていたかった。