【完】さつきあめ〜2nd〜

わたしなんかより、美月はずっと強かったと思う。
美月は変わってしまった。あの頃ただただがむしゃらに敵意を向けていた頃の美月とは違う。
守る物を手に入れた美月は、わたしなんかよりずっと強い人間になっていた。
それ以上に守るべき大切な物があったのだろうか。それ以上に自分を強くする存在がこの世にあったのだろうか。
美月に芽生えたもの、わたしが手に出来ていればわたしは彼女より強くなれていただろうか。

行かないで。
ただ美月を追いかけていかないでと願うだけの弱いわたしに。

美月が帰って、朝日と光。3人になった空間は途端に静まり返っていた。
まるでその時間だけ切り取られたみたいに、時間が止まっているかのように思えた。
けれど光の胸に顔を埋める自分の目から、やっぱり涙はとめどなく溢れてくるから、時間は止まらないし、待ってはくれないのだと思う。

「どうするつもりなんだよ…」

「うるせぇって!お前には関係ない事だろ!
それよりさくらを離せよ!」

朝日に強く腕を引っ張られる。
熱い。大好きな人の体温。それはやっぱり光に似ていて。
けれど、その手を取る事は出来なくて、振り払ってしまった。

一瞬ハッとして顔を上げて、朝日を見つめる。
朝日はぼんやりとした顔をして振り払われた自分の手のひらを見つめていた。

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