【完】さつきあめ〜2nd〜
⑱
「あ、雨だ」
「台風が来てたからな」
ベッドの上から起き上がり、窓に張り付く雨粒をぼんやりと眺めていた。
窓に手のひらをつけるとほんのり冷たい。その手に重なるように置いた手のひらは、普通の人の体温よりずっと熱い。
あの人と同じように熱い。けれどどれほど似ていても、少しずつ違うように出来ているようで、全く同じ物だとは感じなかった。
その腕に抱かれている時でさえ。
ぼんやりと悲しみの中で考えていた。
朝日がわたしを無理やり抱いて、後悔をしていたあの日。
目の前の雨粒が窓に滴り落ちる。
重なった手の力が僅かに強くなる。
「後悔してる?」
その言葉に振り替えると、こちらを見つめる瞳がどこか悲し気に映った。
後悔なら、あなたを頼ってしまった時からずっとしてる。
その言葉に曖昧な笑みを浮かべた。
その姿に恋い焦がれて、何度も背中を追いかけた恋だった。初めてキスをした日の喜びを、ひとりで過ごす夜の寂しさを、突き放された日の絶望を。
あの頃の全てだった人。過去も未来も全部欲しかった人の腕の中は、思っていたよりずっと居心地が良くて。
そして、ずっと後悔をしていた。