【完】さつきあめ〜2nd〜
久しぶりだね、と柔らかい笑みで迎えてくれた中年の男性。
店内には、カップルで来ている年配のお客さんのみで落ち着いた雰囲気。
マスターはグラスを磨きながら片目を閉じて、それをライトに照らした。
ここで以前朝日と光の過去について聞いた。マスターは相変わらず口数は多くなかった。カランと鈴のような涼しい音が店内に静かに響いて、「来たよ」と目配せした。

バーZERO。
彼女が指定してきた場所は昔彼女と偶然会った場所でもあった。
あれから時は流れていた。どれだけ時が流れても、隣に座る女性は綺麗なままだった。

「マスタービールちょうだい」

「はい、少々お待ちください」

手早くグラスにビールを注ぐと、わたしたちから少し離れてマスターはグラスを磨き始めた。

「驚いた。
南ちゃんから連絡が来た時は……
ていうか、あたしたちあんまり仲良くないんだけどね。
あの子って有明さんにかなり惚れこんでるから、あたしの事はあんまり良くは思ってくれてないみたいね。あたしと有明さんに何かあるわけないのにね。

それにしても、有明さんにあれだけ惚れこんでる子まで取り込んじゃって、あなたって本当に人たらしね」

「そういう訳じゃなくて……南さんとは友達とかでもないし…」

「あら、それでもあたしにわざわざ電話してくるなんて相当嫌だったろうに。
あ、煙草吸っていい?」

南はこちらを覗き込みながら、右手にシガレットケースを持った。

「はい……」

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