【完】さつきあめ〜2nd〜
煙草に火をつけて一口吸い込んだ後、目の前にあるビールに口をつける。
そして早々に本題を切り出した。

「で、あたしに用って何?あなたから連絡が来るって事はよっぽどの事なんでしょうけど」

ゆりの長いさらさらの茶色い髪の毛が揺れる。
視線を移したら、その茶色い強い瞳が掴んで離さない。思わずこちらから目を離してしまいたくなるほど、強さを持っている女性だった。
その強さを目のあたりにして、いつも逃げ続けてきた自分がどこかにいた。
今日まで、ずっと。

けれど、強くならないと手に出来ない未来があった。

「ゆりさんお願いです。七色グループに戻ってください」

「は?」

まるで時が止まったかのようにゆりがこちらをじいっと見つめる。
まるで言ってる事の意味が分からないといった感じで。

「何を言っているの?自分が何を言っているか分かってるの?」

「分かってます…。無理を承知で頼んでいます…。
今の七色グループにはゆりさんの力が必要なんです…。ゆりさんがいなくなったら、皐月オープンどころか七色の未来まで危うくなってしまう」

「そんなのあなたに言われなくたって分かってるわよ。
あたしと、あたしについてきてくれる主要キャストが七色からいなくなるって言う事はONEが機能しなくなるって事。
あたしがいて、皐月がオープンするからこそ、菫さんがONEに移籍できた。
けれどその皐月の話が白紙に戻ればONEどころか双葉だって他の店だって続けていくのは難しいかもね。
でもね、分かってる?それを承知であたしは七色から出ていくの。朝日の大切にしてるもの、全部奪ってね」

いつも強気だったゆりの視線が、朝日の大切にしてるものと言った瞬間一瞬曇った気がした。

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