【完】さつきあめ〜2nd〜

「あたしに頭を下げるなんて、キャバ嬢の前に人間のプライドっつーもんがないの?」

「もう…プライドなんていらない…
だってあたしに出来る事なんてこのくらいしか!!」

ふぅ、と大きなため息を吐いた後、ゆりは再び椅子に座りなおした。
そしてわたしを見下ろしながら「立ち上がりなさいよ…」と小さく呟く。

ゆっくりと立ち上がると、ゆりはイライラしたように煙草に火をつけながら、携帯を取り出してどこかへ電話を掛け始めた。

「もしもし、いまZERO。

うん、そうね。
それよりあなたの大事なお嬢様が聞き分けなくって困ってるの。
うん。どうでもいいけど……近くにいるんでしょ?迎えに来なかったら何するか分かんないわよ」

そう言って、電話を切った。

「誰ですか…?」

「さぁね?すぐ来るんじゃないの?」

ゆりはそう言いながら真っ直ぐ前を向いて。煙を吐き出した。
マスターはカウンター越しから「手を拭きなよ…」と言いながら温かいおしぼりを差し出した。

空気の悪さを見かねてか、カップルで来ていたお客さんは立ち上がりお会計を済ませて帰ってしまった。
それから数分。ゆりとわたしとマスターの間に気まずい沈黙が流れる。
けれどその沈黙を破るようにZEROの扉が大きな音を立てて開かれた。

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