【完】さつきあめ〜2nd〜
数年前。
まだ七色グループなんてなくて
高校に行かなかった俺が必死でお金を貯めて、やっとの思いでONEをオープンさせた。
ONEはいまより箱も規模も小さくて、まだどこにでもある大衆キャバクラだった頃。
オープン時からずっとナンバー1だったキャストがいた。
彼女はこの街でちょっとした有名人だった。
綺麗な女で、でも気取ったところなんてない奴で、キャバクラの仕事が好き、なんて素で言っちまうような奴で
何よりもその売り上げのすごさよりも、指名数の多さが評判だった。
金を持ってようが貧乏だろうが人を差別せずに、人を人として見るような人間で、何よりも心が綺麗な人間だった。
「さくら……」
「ん?」
くるりと振り返った彼女は胸まで伸びた髪をなびかせて微笑んだ。
「別に……名前呼んだだけー…」
「なによぉ~!!!」
そしてまたとびっきりの笑顔を見せるのだ。
色々なキャバ嬢を見てきた。
色々なナンバー1がいる。
どの店にも必ずいるナンバー1。
営業上手だったり、顔が人並み外れて綺麗だったり、会話が上手な奴。
でも多くのナンバー1に共通してるものがある。
華がある人間。これはもう感覚としか言いようがないんだけど、その場にいるだけで場の空気を変えてしまうような女。
さくらは俺が見てきた人間の中で、それが特に強いような女だったと思う。