【完】さつきあめ〜2nd〜
そのごく少数の人間が’さくら’だった。

さくらはナンバー1になっても、どれだけ店で人気になろうと出会った頃と何ひとつ変わらないような不思議な女の子だったのだから。
誰もがきっとそう在りたいと願いながら、人間は欲望には勝てないとまた自分自身にげんなりしてしまうのだろう。

美しいドレスに身を包んで、高級なアクセサリーをつけて、ブランドの靴を手に入れても
まるでお伽話に出てくるお姫さまみたいに貧しい人間にも優しく微笑む、そんな女だった。

黒服にもキャストにも誰にも平等でいて、誰にでも優しくて、怒ったり我儘を言ったりしてる姿は見た事がない。
そんなさくらがお客さんから人気が出るなんて必然で、そのお客さんさえさくらは差別する事がなかった。
お金があってもなくても同じ時間を買ってくれるなら人は平等だ、そういつも言っていた。それを綺麗ごとだと笑う人間も確かにいたのだけど、さくらはずっとナンバー1で在り続けた。
この頃のONEのナンバー2は由真で、由真も相当すごい売り上げをあげるキャバ嬢だったけれど、さくらに勝てた事は一度もない。

けれど由真は由真で才能があるキャバ嬢で、とにかく金を持っている人間を見分けるのが上手い。
彼女は太客と言われるお客さんを相手にするのが上手で、そしていらない物は即座に切り捨てる。判断力が優れたキャバ嬢だった。

ひとりの力は偉大で、けれどひとりの力はたかが知れてる時もあって
さくらは金持ちから普通の人間まで、とにかく指名数が凄まじく多いキャバ嬢だった。
さくらの指名は毎日何10組も被っている。
けれどそれに文句を言ったりするお客さんはほとんどいなかった。それでも客はさくらを指名しにお店にやって来る。
同業の女の子の指名も多い奴で、なんていうかな…クラスにひとりはいる人気者。みたいな。そいつひとりがいるだけでその場が圧倒的に華やかになってしまう才能を自分が知らないうちに持ってるような奴。

俺もさくらと出会うまでは自分はそういう人間だと思っていた。
けれど気づいてしまったんだ。先天的にそういう才能を持ってる奴。後天的に身に着けた奴。
さくらは前者で、俺は後者だった。

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