【完】さつきあめ〜2nd〜
成長するにつれて、本当に不自由だったのが誰かだと気づくのに時間はかからなかった。
何も手に出来なかったみすぼらしかったあの少年はいつしか自分の足で歩きだして、そして眩い光りと共に俺が手に入れれなかった物を軽々と手にしていくんだ。
もう彼は誰かに与えられる存在ではなかった。
自分の力で自分の欲しい物を手に入れて、自分の願いを自分の手で叶えていった。
朝日くんも大切なんだ、幼き頃に言った言葉に
兄貴は大きな目をきらきらと輝かせながら、何ひとつ偽りのない笑顔で嬉しそうに俺を見つめてきた。
…俺には、そんな兄貴が持つような心小さな頃からなかった。
母親は自分勝手な人間で、でも子供は母親の思想に染まって行ってしまうらしく
俺の母親で兄貴の義理母にあたる人は朝日へ特に冷たく当たっていた。…知っていたからなんだ。
父親が、本当は朝日の母親を愛していた事を。そして、俺が小さい頃に焦がれて焦がれて仕方がなかった温かな家庭を手にすべき人間が朝日だったという事も。
手に入れていたようでそれは思い上がりで、その事実を知っていたから母親は朝日に余計に辛く当たった。
そして俺を着飾って、父親の跡継ぎは俺だと自分自身に言い聞かせるように俺に言い聞かせ
それでも兄貴はONEの名刺にカスミソウをあしらって、2店舗目の双葉にはジャスミンの花をあしらった。
ジャスミン……茉莉花は俺の母親の名だったが、あんなに愛情がなくて自分本位で、義理の母親でも、兄貴は真っ直ぐにあの女に愛情を求めていたのだと思う。
その心はどこまでも純粋で、そして兄貴は俺にとってとてつもなく眩しい人間に日々なっていった。