【完】さつきあめ〜2nd〜
「あらぁ、光帰ってたのかい?久しぶりだねぇ~!」

母親からはいつも甘いコロンの香りがしていた。
この匂いが大嫌いだった。

「別に、ちょっと荷物を取りに帰ってきただけだから」

「あんたねぇー…、朝日の店を手伝ってるんだって?
いつまでもそんな遊びのような事してられないんだからね!」

「うるさいな!それより父さんは?書斎?」

いつまでも母親にならない、自分勝手な少女のような人。
でもこの人の中にも孤独があったのだと、いまなら分かる。

自分の物だと思っていた会社が兄貴の手に渡る事が許せなくて、俺を利用した人。
でもそもそもの原因は父親にあるって事も知っていた。

「ああ、光帰っていたのか?
綾が寂しがっていたよ」

自分の書斎で書類に目を通すこの父親と呼ばれる人間が、俺の事をちゃんと見ていないと気づいたのはいつの頃からだっただろうか。
一見優し気な瞳で俺ではない、違う場所を見つめていたこの人と俺はよく似ているという。
兄貴には余り似ていない。兄貴は母親似だというのは父親の隠し持っていた写真を見て知っていた。
だからふとした瞬間に父親が兄貴を見つめる姿がまるで愛おしい物を慈しむような顔をしている事に気づいたんだ。

そして、この人の本当に愛していた人を知る事になる。

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