【完】さつきあめ〜2nd〜

「よく深海の事知ってるな」

「あら、あたしは深海さんだけじゃなくて有明の性格もよぉ~く分かってるつもりだけど?
だからあんたみたいな実はヘタレな男がさくらと付き合い始めたってのは正直驚いたけど」

「あんまり人をへこませる事言うなよ…悪魔か…お前は」

「悪魔か……。いいかもね。今日もたーいせつなお客様のお金を底の底まで搾り取ってやんないとね」

「お前はなー………」

ふとした瞬間気づく事がある。
気づきたくないのに、気づいてしまって目を逸らしてしまいたくなる事実ってもんがある。
けれどそんな時でも目を見開いて真っ直ぐに見つめてしまう癖があるんだ。
見たくないものなら目を瞑れば良かったし、聞きたくない事なら耳を塞いでしまって良かったんだ。
そうやって罪に目を瞑る事で、人は人を許せるんだから。

お客さんの席につきながら、時たまフロアを見渡すさくらの姿。
その視線の先にホールを鋭い眼光で見つめる兄貴の姿があった。

本当に一瞬の出来事で、見ようとしなければ見えないもの。
ぼんやりとした瞳で、さくらの瞳が追いかけていたのが兄貴だったのに気づくのはいつからだっただろうか。

「有明!!」

由真の大きな声で、一気に現実に引き戻された気がした。

「別に気にする事ないんじゃない?」

「え?」

「言葉にしなければ伝わらないなら、それを言葉にしない方が悪いんだし」

< 495 / 826 >

この作品をシェア

pagetop