【完】さつきあめ〜2nd〜
さくらは人を特別扱いしないところが良い。
けれど笑ってるのに、どこか寂しそうなところが気になる。と

さくらが寂しそう?そんな言葉一度だって聞いた事がなかった。どの指名客の前でも明るくて元気に笑っていたさくらが寂しそうだなんて思った事すらない。
やっぱり人の心の奥の奥は分からない。

時は過ぎて、高校を卒業した綾がONEで働くようになった。
もちろん母親は猛反対したし、俺や兄貴もそれを良くは思わなかった。
それでも綾はキャバクラで働いて、そしてさくらと出会って、さくらに心を開いていった。いつの間にか親友のような関係になっていった。
俺はさくらとずっと一緒にいて、小さな喧嘩もなく幸せな毎日を送っていた。でもそう思っていたのは俺の方だけだったのかもしれない。

ある日突然、さくらが俺と別れたいと言ってきた。
足元から全てが崩れ落ちていく感覚だと思った。

付き合って、と言ったから付き合ってくれた。
一緒に暮らしたいと言ったから、一緒に暮らしてくれた。
思えば俺たちの関係はいつだって俺から始まっていて、さくらは嫌な顔ひとつせずに俺の想いを受け入れてくれた。
そんな性格のさくらだったから、俺が終わりを告げなければこのままずっと付き合い続けていくとばかり思っていた。
そのさくらから初めて見えた感情だった。

ずっと気づいていたけど、見ない振りをしてきた事だ。
見なければ、知らない振りをしていれば、さくらはずっと一緒にいてくれる。それでも繋ぎとめておきたかった。
けれど、さくらは出会ってから初めて、自分の意志で自分の気持ちを俺へぶつけてきた。

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