【完】さつきあめ〜2nd〜
その想いを見ないように生きてきた。
俺の本当に手にしたかった物は、いつだって兄貴が持っていたんだ。
小さなお店で、兄貴がいつでもさくらを見つめているのを知っていた。
そして、いつしかさくらが兄貴を見つめているのも知っていた。
兄貴はそのさくらの想いを知らない。きっといまも……さくらが死んだ後だって兄貴は後悔し続けた。自分がさくらを殺したも同然だと。
けれど、さくらを殺したのは、俺だ。
さくらと俺が別れて、さくらは兄貴と付き合いだした。
とはいえ、それは表立って分かるような感じではなく…その数か月はいまにして短かったけど、俺にとっては地獄のような長さだった。
さくらと別れて自暴自棄のように色々な女に手を出した。けれど満たされる夜はなかった。どうしてこんなにいらない物ばかり、この手の中には残ってしまうのだろう。
双葉をオープンしようと話は進んでいて、グループを作って俺を社長にしようとしていた。
さくらを失ってなおもそこに居続けた理由。
いつかONEを開いてから、兄貴からもらった同じブランドの違う型の高級腕時計。
初めてもらった兄貴からのプレゼント。いつしか与えられる存在だけだった彼は、人に与えるようになった。
そして、俺の本当に欲しかった物まで……。
誰にも話していない事がある。
さくらが遺書も残さずに兄貴の家で死んでしまったあの日の前日。
俺はさくらに会っていた。
いつまでも未練がましくさくらに執着し続けた俺は、どうしても彼女を諦める事が出来ずに、あんなに自分の気持ちをぶつけたのは初めてだった。
人を口汚く罵ったのも、初めてだった。
犯した罪の重さを知るのは、彼女がこの世に戻らなくなってしまったのを知ってから。