【完】さつきあめ〜2nd〜
この2週間。
たった2週間だけど、わたしの人生を変えるようなかけがえのない時間になっていく。

「元木さんのところありがとね」

「いえ…こちらこそ…あんないいお客さん…」

化粧室でたまたま雪菜と会って、少しだけ話をした。
彼女は鏡に向かってグロスを引きながら笑顔を見せる。

「今日は特別上機嫌。さくらちゃんの事はたいそうお気に入りみたいね。
あの人はかなり売り上げもあげてくれるわよ。毎晩飲み歩いてるような人だから、今月は毎日でも通ってもらえるようにお願いしておくわ」

「…でも雪菜さん…あの人はやっぱり雪菜さんのお客様です…。
やっぱりバックが全部あたしに来るのは可笑しいと思います…」

「まだ言ってるの?」

グロスを引き終わった後、雪菜はこちらをじいっと見つめながら言った。

「あたしの客であっても、あなたが気に入らなければ指名は続かない。
きちんと数分でお客さんの心を掴んでいるじゃない。それはもうあなたの力。
ポイントやバック数の話をしてるのであれば、この勝負が終わったらご飯に連れってて」

「でも………」

「さくらちゃんの奢りで超高級焼肉ね!」

それだけ言い残し、またわたしの背中を叩いて、雪菜は化粧室を出て行った。
見えなくなった背中に「ありがとう…」と小さく呟いた。
もうこれ以上変な遠慮をすると野暮だ。
わたしがしなくてはいけない事はONEを守る事。雪菜が好きだと言った、ONEを…。

朝日の夢を守りたい。たったひとつから始めたこの勝負は、いつの間にか沢山の人の願いを、そして想いを守っていく事へ少しずつ変わっていった。

< 539 / 826 >

この作品をシェア

pagetop