【完】さつきあめ〜2nd〜
その時、更衣室にゆりが入って来た。

更に張り詰めた緊張感の中で、何人かのキャストは静かに帰る準備を始めた。
ゆりが入っていた事に気づかないミエたちは依然口論を続けていた。
そんな喧騒の中、ゆりがわたしの前で足を止める。

今日1日、たった1日だ。それでも何故か彼女に以前のような余裕は感じられなくて、険しい表情でこちらを見つめる。
その顔を見た時彼女も孤独だったのだと知る。

’不動のナンバー1’
それがどれほどのプレッシャーとの戦いか。
彼女は口に出さなくとも、影で沢山の努力をしてきただろう。疲れる日もあっただろう。その栄光を守るために、独りでいることを受け入れるような強さを誰もが持っていない。
それでも彼女はいつだって気丈に振る舞い、人に弱さを見せずに、栄光の上に成り立つ沢山の感情を自分ひとりの背に背負ってきた人だ。
わたしに1日でも売り上げで負けた事は、彼女の中でかなりのダメージになっていた。

「たった1日限りの事よ……」

まるで自分に言い聞かせるように言った。

「今日の売り上げがどれだけ良くたってそれはたった1日だけの事…
それであたしに勝ったなんて調子乗ってんじゃないわよ。
あんたたちなんか束になってきたってあたしには敵わない…」

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