【完】さつきあめ〜2nd〜
その言葉を言い放ったゆりが、余りにも頼りなげに見えた。
あぁ、この人は誰にも弱さを見せてこなかった人だ。
大きな光りの影に沢山の闇があったもの。
闇は大きければ大きい程光りを輝かせる。
彼女の中で抱える沢山の闇の上で、ONEという舞台で彼女は光り輝くんだ。
ゆりが今までどれだけの悲しみの上でナンバー1に立っていたのかなんて、あたしには図りきれない。
若さが大きな力になる世界で、ずっと自分の地位を守り続けてく事がどれだけ大変な事だったか。
隣の更衣室からはキャスト同士の争う声。睨みつけるゆりと、立ち尽くすわたし。
それでも、負けるなんて考えた事もなかった。いや考えないようにしていたと言った方が正しいか。
勝負の先を見据えてしまえば、そこから前へ進めなくなる。だから未来の事は見ない事にした。
どうしたって結果が出てしまうのならば、最後の瞬間まで負けるなんて想いが自分の中にあってはいけなかった。
それは、わたしを信じてくれる人、応援してくれる人、すべての人に失礼な事なのだから。
だからわたしは、目の前にいる美しいその人に勝つ事だけを考えて動かなくてはいけない。
「あーら、ゆり、何か焦ってる?
いくらゆりであっても最近はひとりのお客さんに負担かけすぎなんじゃないの?」
「雪菜は黙ってて!
それにお客さんの管理は自分できちんとしているから」