【完】さつきあめ〜2nd〜
そうじゃない。
心の中で何度も叫んでも、声にならない言葉。
伝えたい言葉が声にならないから、朝日の話をずっと聞いていた。
もう1ヵ月も経つのか。
光のお店はオープンしたのだろうか。THREEは?七色グループは一体どうなっているのだろうか。
この数日ずっと考えないようにしていた事が頭をめぐる。

「好きな物を、無理やり奪う事ばかり考えて生きてきた…。
けど今のお前を見ていると…俺は…
この1ヵ月ここから出て行こうと思えば出ていけたはずだ…どうしてだ…」

朝日、それは…
それはね、どうしても言いたくて、どうしても言葉に出来ない。
だからこんなにも朝日は苦しんでいる。今の朝日を苦しめているのはわたしそのものだ。

「俺は結局、さくらとお前を同じようにしか出来ないんだな…」

あの頃伝えたい事は沢山あった。
けれど、何ひとつ言葉に出来ず。

光から聞いた。
さくらさんが死んだ理由は、朝日じゃない。
さくらさんは朝日を愛していた。
けれどそのさくらさんの本当の想いを知らずに、朝日は後悔して生きている。
そんな後悔を、この人にもうさせたくないのに。
わたしの中の、朝日への憎しみが心の底から消えてくれないから、伝えられずにいた。

同じ時を生きてきた。光と同じように朝日との時間を積み重ねてきた日々の中で、わたしは自分の中に芽生えた気持ちを、今になっても朝日に伝えられずにいた。結果それが朝日をこんなに苦しめている。

この時わたしが朝日に自分の素直な気持ちを伝えられていたのなら。

「有明の店がオープンした」

「え?」

「さくら、お前はもう好きに生きていい」

「何で…」

だから何で、わたしを無理やり縛ろうとしたり、突き放したりしたり。

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