【完】さつきあめ〜2nd〜
「ちが…っ…」
綾が慌てて俺に駆け寄ってきた。
それでも顔を上げられずにいた。
情けない、嫉妬にまみれた男の、下らない人生の中で
なくした命を後悔して生きてきた。そして目の前の彼はそれ以上に後悔して生きてきた事を知っていながら
その全てを背負わせてしまったのは、俺だ。
「光?!だいじょうぶ?!」
「ちがう…んだ…」
あの日のさくらの顔が忘れられない。
自分を守るために隠した過去。
兄貴になすりつけた罪を…。
「ごめん……ごめん…兄貴……」
あんな小さな頃の、自分を良く見せるための言葉をただただ信じてくれた彼に
「光、お前は何も悪くないよ」
「違う…違うんだ…。
俺…兄貴にずっと言ってなかったことがある。兄貴にも皆にも…ずっと嘘をついていた…
さくらが…さくらが死んだのは…」
さくらは、と彼女の名前を出した瞬間
顔を上げ、目の前の光景がはっきりと見えた。
綾が手を止め、目の前に座っている兄貴は眉をひそめた。