【完】さつきあめ〜2nd〜
㉖
組み立てられたシャンパンタワーのグラスが、照明の光りを浴びて、目が眩むほどの輝きを放つ。
それは余りに綺麗すぎて、うっとりと見惚れていると夢の中にいる気分になる。
わたしとゆりの差が、僅かになってきた瞬間引き離されていく感覚。
シャンパンタワーは一昔前までホストの物だったと誰かが言っていた。それでも近年タワーをするキャバ嬢は増えていって、バースデーの日なんかはこの煌びやかなタワーが何台か飾られた。
まるでこの日の為に力をためてきた、と言わんばかりに輝きを放つシャンパンの前で
それでも絶望の前に自分がいない事に驚いた。
お店には、大きなゆりのポスターと共に派手に装飾された飾り。
その中心にいり人は今日も妖艶に、でも余裕で自分に1番似合う黒いドレスに身を包んでいた。
この空間が全て彼女の為に演出されたと言わんばかりに。
けれどお店の外までずらりと並べられたお花のスタンドは、白く大きな百合の花が目立っていた。
その中に大きくひと際目立つ百合の花。宮沢朝日と書かれた名前があった。
バースデー1日目。
まだまだ本気を出しているようには思えなかった。
タワーにシャンパンを注ぐゆりは、決してわたしの方を見ようとはしなかった。
「あのタワー500万ですって?」
営業中、菫がこっそりとわたしの耳元で囁いた。
「ご、500万?!」
「ほんと、ゆりってひとりのお客さんが大きいわよね」
ゆりの写真が印刷されたオリジナルシャンパンが何10本も並ぶ。