【完】さつきあめ〜2nd〜
そして、美優たちも、ラスト間際までいてくれた。
美優に見守られて仕事をするのは懐かしさもあって、あの頃いつも一緒にいた安心感もあった。
改めて人と人は絆で結ばれていると知った。
わたしの成し遂げたい事は、あの絶望を感じていた生温い夏の雨の中。朝日への復讐の為だけにここに来たはずだった。けれど不思議な事に、いまはその朝日の為に、このお店を守るために立っている。
さーちゃんと見た、5月の桜が綺麗だったあの日。
深海に源氏名はどうするかと聞かれ、あの情景が目に浮かび、たまたまつけた源氏名だった。
でも、さくらは特別な名前であって、わたしはさくらであることで沢山の人に守られていた事を知った。
憎しみだけだったはずなのに、沢山の出会いの中で、沢山の人の感情の欠片に触れた。
触れた結果、憎しみだけの感情の中に色々な想いが募った。
それは悲しみだったり、優しさだったり、愛情だったり、そうやって人と人の縁が紡がれていくことも。
そうね
あなたも、わたしが触れた感情のひとつだった。
あなたはまるで誰にも触れられないガラスのようで、どこか冷たくて、でも愛する物への執着が何よりも強くて
美しくて、でも美しいだけの心なんかじゃなくて、愛する人の為なら、何でも捨てれるような強さを持っている人。
シャンパンのボトルが空いて、それを一滴注がれるたびに、それはあなたがどこかへ封印した涙だったような気がした。
強い人だと信じていた。でも強い人だと思っていた人は、いつだってひとりで強くあろうとした人だったのだ。