【完】さつきあめ〜2nd〜
空気のようにそれは軽く、でもどこか強い存在感がある。
ソファーが少し揺れるのを感じて、彼女が横切るたびに香った香水の匂いがふんわりと空間を支配していく。
ゆっくりと目を開いたら、シャンデリアの光りが目に飛び込んできて、一瞬目を細めてその眩しさを感じていた。
「まさかバースデーの期間中に1日たりとも負けるとは想像もしていなかったわ…」
静まり返ったフロアに小さく響く、その声色さえ美しかった。
「ゆりさん……」
「あたしは18でこの世界に入って、ナンバー1を取った日から誰にも負ける事がなかった。
それは負けないように自分なりに頑張っていたし、あなたみたいに甘やかされてなんかいなかったから、想像も出来ないくらいの泥水をすすってきた事もあった。
そうでもしてナンバー1に拘るのはあたしのプライドのひとつだった…」
重い体をずらして、隣に座る女性を見つめた。
その横顔は、車に乗っている朝日を見ていた切ない横顔と同じだった。それに一瞬驚いた。
誰だって本当は強くはない事。弱い自分が嫌で必死に強くあろうとした結果、弱い自分を封印した
そこに座っていたのは、キャバ嬢ではなく、ただの弱々しい女性そのものだった。