【完】さつきあめ〜2nd〜
わたしは朝日の築き上げたお城でナンバー1になって、お店さえも動かす力を手に入れ手に入れた後に朝日を裏切ってしまえば
それが復讐になると本気で信じていたのだ。
それを思い返して、ハッとした。

愛情が憎しみに変わった時に、ゆりが取った行動。
朝日を裏切り、七色グループがなくなる事を望んだ。それが彼女なりの朝日への復讐だった事。
皮肉な事に、あの頃わたしが望んだ夢を、今まさに彼女が叶えようとしていた事に。
そして、わたしはそれを阻止する為に、あの頃とは正反対の意識でナンバー1を目指そうとしていた。

「あたしは…ゆりさんみたいにナンバー1になる事が夢なんかじゃないです…
いまナンバー1になろうと思ってるのも夢というより色々な人の想いを守るという手段でしかないというか……
そう考えれば、これはあたしの夢ではない…と思います…」

こうやって考えれば走り続けてきた2年の間、夢らしい夢なんて自分の中にはなかった。

「さくらちゃん、あたしの夢はね七色グループでナンバー1で居続ける事でも
キャバクラの世界でナンバー1で在り続ける事でもない…
あたしの夢は、朝日と出会ってからただひとつ」

「ただ…ひとつ……?」

「あたしはただ……朝日と家庭を持ちたかった…」

ナンバー1で在り続けた美しいその人が、望んだ夢は余りにもどこにでも有り触れていて平凡で
けれどその言葉を綴る彼女の横顔は痛い程切なかった。
全てを手にしてるはずの彼女が望んだ夢は、余りにもわたしの目には子供染みていて、そして何よりも純粋に映った。

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