【完】さつきあめ〜2nd〜
どこまでも朝日だけを一途に想い続けた彼女。
だけど、わたしが守りたいものは朝日とこのお店であると同時に、いままで出会ってきた人全部だったから。
シーズンズを守りたい深海だったり、その深海を守りたいと思っている高橋だったり
双葉を守りたい由真だったり、由真を支える沢村だったり、このグループで出会ってきて、わたしを支えてきた沢山の人の想いを全部守りたかった。

朝日への想いを勝ち負けで決めたくない。
けれど朝日の事だけを想い七色グループを守り、叶わない想いの間で悲しみにくれ、それほどまでに朝日を愛している
そんなゆりの一途な気持ちには、どうしても敵わないと思ってしまったんだ。同時にただひとりの人の為にどうまでなれるゆりを羨ましく思った。
朝日を’夢’だとはっきりと言ってしまえる彼女を、それ以外はどうでもいいと本気で思える彼女の一途な想いが眩しかった。

ガシャーンと金属音の交わう音が聞こえて、重苦しかった体をゆっくりと起き上がらせる。
ゆりの手の甲で弾かれたテーブルの上のグラスのセットは粉々に床に散らばって行って、真っ白い細長い指に少しだけ血が滲む。
その長く細い指で、顔を覆って、声も上げずに涙を流した。こんなに静かに泣く人を見た事がない。こんなに美しく嘆く人の姿をいままで見た事がなかった。
指から滴る真っ赤な血さえ、彼女の白い肌を染め上げて行って美しく絵になってしまうんだから、その姿にハッと目を奪われた。

こんなに美しい泣き顔をわたしは、見た事がやっぱりないから胸の奥をツーンと刺すような痛みが体中に広がっていくんだ。


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