【完】さつきあめ〜2nd〜
「あたしの世界は朝日だけ!!
それなのに朝日だけじゃないと言い切ってしまえるあなたに負けるなんて思いたくない!」
「ゆりさん、指……血が…怪我してる」
差し出そうとした手を、ゆりは冷たく振りほどく。凍り付く程冷たくなった指先に、彼女の悲しさや寂しさが伝ってくるようで一層切なくなってしまう。
「だからそんな風にいい人ぶってあたしの心配なんかしてんじゃないわよ!
そんな風に人を見下して、自分は愛されてるからって余裕ぶってるあなたが気に障るのよっ!
あたしだってあなただったら…朝日に愛されてる自信があるのなら、どんな善人にもなってやる!結局余裕があるからあなたは人に優しく出来るだけなのよ!
でもあたしにはもう…何もない…
あなたのような優しさも、純粋な心も…愛する人に愛されるそんな普通の未来だってもう手に入れられない…」
「ゆりさん……」
見せないように顔を覆う指先の赤い血が段々広がっていく。
それでもそんなもの気にする事もなく、彼女は血だらけの指で自分の顔を覆い隠した。
「朝日を…返してよ…」
痛い程シンプルな欲求で、でも彼女の中の切実な願い。
この世界で、欲しかった物なんてひとつだけだった。
それは限りなく本音で、透明で、ゆりの感情がわたしの中に真っ直ぐに入ってくるから、切ない程痛い。