【完】さつきあめ〜2nd〜
「あたしにとってキャバクラって何となく入った世界だったんです。
ゆりさんみたいにナンバー1に拘るほどの強い気持ちはなかったし、あたしは絶対にあなたのようにはなれない。
それでもここに来て2年ちょっと…。本当に沢山の出会いがあった。沢山の人の感情に触れて、色々な人にそれぞれの夢があるのを知った。
だからその大切な人を守るために、あたしはきっと戦ってるんだと思う…。
朝日だけの為じゃなくて…。
だからたとえ朝日へ対する気持ちがゆりさんに負けていたとしても、この勝負ではあたしは絶対に負けない」
真っ直ぐゆりに向けた瞳に、彼女の涙が引っ込んでいって、わたしを強く強く睨みつけた。
ゆりはふらりと立ち上がり、力抜けたまま、ゆっくりと歩きだした。
「どうして大切にしなかったって言うのよ…。
だから最初から言ってたじゃない…後悔するって…
あなたはずっと有明さんと一緒にいてくれれば良かったって
そうしなかったから、こんな事になったんじゃないの…」
ゆっくりと目を瞑って、頭をよぎる夜が沢山あった。
朝日を信じ切れなかった事。
どんな朝日であろうと受け入れられなかった夜に、大好きだった人の温もりに甘えてしまった事。
強かったわたしも弱かったわたしも、今にして思えば紛れもなく全部わたしである事は確かだったし
捨てたくなかったのに、捨てなくてはいけなかった物が沢山あった。何度も後悔した夜もあって、戻りたい時間も沢山あった。
あの時こうしていたのなら
あの時選択を変えていたのなら
そう考える事は何度もあった。