【完】さつきあめ〜2nd〜

「おつかれさん」

高橋がテーブルにミネラルウォータを置いて、床に散らばったグラスの欠片を掃除し始める。
おつかれさま、と言った高橋の背中の方がずっと疲れていそうで、少し気が緩んだ。

「ありがとう」

差し出されたミネラルウォーターのキャップを外して、一気に飲み込む。
ゆらゆらと揺れる視界が少しはまともになってくれるといいが、思っている以上に無理をしすぎていた。
そう考えたら、ホストの蓮の言っていた言葉が頭をよぎった。
メロンソーダのがよっぽど美味しいよ。確かに、だ。それを思い出したら、ひとりで笑えてくる。

大金の動く世界で、売り上げを伸ばすだけの為に美味しくもないシャンパンを飲んで、自分の体をまるでいじめてるみたい。
それでもこの夜の世界で誰もが何かを欲しがって、飲みたくない時も無理やり体に無理させて飲んで、笑いたくないのに笑って、それでも欲しい物がそれぞれの胸の中には確かにあった。

「何笑ってんの、変な奴。
ずっと変な奴とは思ってたけど」

「いやぁ…シャンパンよりメロンソーダのがずっと美味しいなって」

「美味しくもないシャンパンを飲んで、ゲロ吐くまで酔っぱらって馬鹿にならなきゃやっていけねぇ夜もあるって事。
大人になると誰にでも酒飲んで女に貢いで馬鹿にならなきゃやりきれねぇ夜もあるから、俺たちの商売が成り立ってる」


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