【完】さつきあめ〜2nd〜
「お前はお前が望む場所に行けばいい」

突き放された瞬間に、自分の中の何かがはじけ飛んだような気がした。
この1ヵ月、わたしは自分を失くして生きてきた。感情さえもどこかに置き去りにして、自分の身に起こっている事さえ見ないふりをして生きてきた。
けれど、突き放された瞬間、全部の感情がはじけ飛んだように、両目から涙がとめどなく溢れた。


「どうして泣いている…」

わたしはただただ目の前にいる朝日を見つめ、涙を流していた。
あれだけ人前で涙を流すことを嫌っていた自分が、その自分がどうして泣いているのかさえわからない。
何も言わずにただ泣くだけのわたしに、朝日は困り果てているように見えた。

「さくら……」

朝日の手が伸びてきて、わたしの頬に触れようとした瞬間に引っ込めた。
わたしを身勝手に抱いたくせに、触れる事を躊躇する朝日が傷ついた顔をするなんて、自分勝手にもほどがある。でも自分勝手なのはお互い様だ。わたしだって自分の本当の気持ちを隠している。

隠しているの?
隠しているのとはまた違うかもしれない。
わたしはただ自分の中にある小さなプライドに縛られ続け、それを誰かとの約束のためなんて都合よく言い訳しているだけな気がする。

ソファーから立ち上がった朝日は、さっき引っ込めた手を再び出して、わたしの事を強く抱きしめるんだ。
出会った頃よりずっと痩せてしまった体の、持っている熱い体温は変わらないまま。
わたしは一体いつから、この人の胸の中が居心地が良いと考えてしまうようになってしまったのだろう。

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