【完】さつきあめ〜2nd〜

「まだ、どうして自分を指名してくれたのか分からないって顔をしてる」

「そうですね…ほんと、分かんないです…」

「僕はゆりの中にある狡さやしたたかさが好きだ。それは彼女が精一杯仕事をしてるから滲み出てくるものだと思っているし、それだけ仕事を真剣に考えているって事でもある。
だから僕の中で、君かゆりか、どっちが上か下かなんて正直ない。
君とゆりのどちらか正しいかなんて僕には分からないし、正しさは立場や状況によっていくらでも変わっていくものだと思っている。」

「はい……」

「だから、僕が今日君を指名して君と一緒にお酒を飲みたいと思う事に理由なんてない。
君と今日同じ時間を過ごしたい。
それが君を指名した理由。単純明快だろ?」

それでもこの人はいつだってわたしが望む時に望む事をしてくれて
ずっと助けてくれた。

「何でも理由をつけようとするのは悪い癖だよ?
もっと物事はシンプルでいいんじゃない?
どうして、とか、何で、なんて考えなくたっていいじゃない。
今の自分の心に正直に従ってみたっていいじゃない」



小笠原の言葉は、胸にグサリと突き刺さった。
理由ばかり探していた気がする。
こうだから、こうじゃなきゃいけないと思っていた事もある。
光を好きでいなきゃいけない、とか
朝日の事は好きになってはいけない、とか
自分はこうだから、こうあらねばいけない。
わたしはいつだって色々な物事に理由をつけて判断して気がする。自分に言い聞かせていた。


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