【完】さつきあめ〜2nd〜
本当はもっと自由で良かったんじゃなかったんだろうか。
あの時も、この時も、過去も未来もどうしても戻れないし、どうやっても分からないのに
戻れない事を悔やんでも仕方がないし、まだ来ていない未来を恐れても仕方がない。
それならば、今確実に1秒刻んでいる現在を大切にすればいい。
でも今思い返してみたって、あの時はそうする選択しか自分にはなかった。それならば、その選択を選んだ自分を後悔する前に愛してあげられたのならば
わたしはもっと上手に人を愛せる気がする。大切に出来る気がする。
「すいません」
小笠原は手をあげて、高橋を呼ぶ。
少し離れた卓で、ゆりの視線がこちらへ移るのが分かった。
「失礼します」
「あぁ、高橋くん。さくらちゃんはちょっと飲みすぎたみたいだ。
オレンジジュースでも何か飲ませてあげてください」
「はい…分かりました」
「時間は少ない。
高橋くんは元気そうだね。良かったら僕に一杯付き合ってもらえないか?」
「もちろんです!!僕で良ければ喜んで!」
小笠原は高橋とわたしを交互に見て、柔らかい微笑みを浮かべる。
そして少しだけゆりの卓へ視線を移して
わたしはもう、彼が何も言わずとも、次に言う言葉を知っていた気がする。