【完】さつきあめ〜2nd〜
「後、5分で誕生日終わっちゃうね」
「あ!ほんとだ!」
「少しだけ待ってて」
それだけ言うと光は立ち上がってVIPルームの扉を開けた。
そして、すぐに戻って来たかと思えば、光の腕の中には、抱えきれないほどの薔薇の花束。
それはそれは見事な、そして毒々しい
こんな趣味の悪い薔薇は初めて見る。
けれど、薔薇の花束の横から顔を出す光は今までに見た事がないくらい優しい笑顔をしていたんだ。
「これは……」
本当はその答えを聞かなくても、その贈り物が誰かから何てとっくに知っている。
感情が一気にこみあげて、目の前の景色が揺らいでいくのが分かった。
「今日は誰かさんからこれを渡してくれって頼まれてシーズンズに来たんだ。
さすがにこの薔薇を見たら、俺が他に贈る物なんて考える事を放棄したくなるくらいだ」
光の手から、ふわりと渡された薔薇の花束。
きつい香りが鼻をつく。
この世界で、人々から1番愛されるポピュラーな花。
わたしの1番嫌いな花。誰もわたしの誕生日に贈ろうとしない花は
いつだってあなたの手から贈られる物だった。
特別なお花だった。