【完】さつきあめ〜2nd〜
変わっていく気持ちを責めた。
変わらないでいたいと願っていた。
あの日見た桜の花を綺麗だと思うように、変わらずにいたかった。
無情にも過ぎていく時間の中で、大切な物だけを選び続け、手にした物を何ひとつ捨てたくなかったわたしに
欲張りなわたしを抱きしめたあなたの気持ちを知ることが出来ていたなら。


持て余していた気持ちを、抱き合う事で埋めれる気がしたあの日。
けれど言葉で伝えなくちゃ伝わらない気持ちも沢山あった。
抱き合う事で埋めれたものは、寂しさだけだった気がする。

12月半ば。
わたしはそのまま朝日の家で暮らしたままで、お互い向き合えもせずに一緒にいる時間が続いた。
それでも少しずつ気持ちが落ち着いていって、わたしは朝日のマンションから歩いていける距離なら外にも出れるようになった。
けれどお店には出勤出来なかったし、携帯の電源をつけることも出来ずにいた。
お店に出勤しないわたしを咎めるような事を朝日はしなかったし、殆ど家に引きこもってろくに動こうともしないわたしにも何も言わなかった。
カードを手渡されたけどそれを使う用事もなかったし、仕事に行く前に朝日は必ずリビングのテーブルに何枚かのお札を置いていった。しかしそれを使う用事もなかったし、使おうとも思わなかった。
何もしないわたしを生かすためだけに食事を与えた。

囲われてるってこんな感じなのかな。と思ったけれど、それともまた違う。
わたしはわたしの気持ちで、今までの朝日の女と同じにはなりたくなかった。
けれども何もしないわたしは、朝日にとってどんな存在だったのだろう。

マンションのエントランスの姿見に映った自分に驚愕した。

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