【完】さつきあめ〜2nd〜
「まだまだです。まだまだ…」
独り言のように呟く。
それでもこんなにゆりを意識したのは、初めてだった。
そんな様子に気づいてか、由真が呟いた。
「いつかゆりだって越えちゃうんじゃないかって」
その横で、沢村が心底驚いた顔をする。
「無理ですよ…。ゆりさんはうちのグループでは別格ですから」
いつだってキャストを肯定する沢村が、無理だなんて言葉を吐くのは珍しかったし、わたしはそれが異様に悔しかった。
ここまで悔しかった事があるだろうか。
自分と相手の圧倒的な差を見せつけられて、ずっとゆりに勝つことが目標だった。けれどこんなに勝ちたいと思ったのは、わたしが朝日に恋をしたからだ。
わたしたちは結局誰かの為に、この世界で足掻いたり、もがいたりしているのだ。
「だって由真ママだって無理なのに…」
「あら沢村さん案外つまんない考え方すんのね。
確かにあたしがゆりと同じくらいの年齢の時で現役だったとしても、ゆりには絶対に敵わない」
「そんな事……」
「敵わないの。ゆりには絶対それくらい自分の器はわかってるつもり。だから早々にキャストを支える側になったんだし
でも不思議だけどね、いつかさくらちゃんなら、ゆりを越えるようなキャバ嬢になるんじゃないかって期待してる自分もいる」
「由真さん…それは買い被りすぎ…」
わたしが言うと、由真は目をぱちくりさせた。
「勝てる人間は勝とうって強い志しを持ってる人だけだと思うわ。
何、さくらちゃん、1番にはなりたいってのに、ゆりには勝てないと思ってんの?」