【完】さつきあめ〜2nd〜

七色に染まる薔薇。
薔薇は花の中で1番嫌いだった。どこか冷たいような気がするから。
好きになれなかった花を、見つめるだけで切ない気持ちになる。近くにいる遠くの誰かさんの顔をどんな時だって思い出せるから。

小笠原をVIPルームに通して、更衣室でドレスに着替える。
まるでわたしの為に仕立てあげられたようにぴったりだった。シンプルなのに、着るだけで体にフィットして、スタイルをよく見せてくれる肌触りの良い大人っぽいデザインのドレスだった。

「さ、さくらさん!」

ホールに出ると、焦った顔をした沢村が駆け寄ってきて、目を大きく見開いてわたしを見つめた。
数秒の間があって、ハッとしたように背筋を伸ばす。

「髪切ったんですね!あんなに綺麗な長い髪だったのに…」

「あ、似合いませんか?」

「いやいやそんな事ありません。
さくらさんは顔が小さいからショートもとても素敵ですよ」

焦ったように沢村が首を横に振った。

「ありがとうございます。
お客さんはどんな感じですか?」

「ほぼさくらさんのお客さんでお店が埋まってる状態ですね…。
ヘルプの女の子たちが着いてくれてます。同伴してくれた小笠原さんの卓には由真ママが着いてくださってますし、優先的に着きたいテーブルとかありますか?
あ、THREEとシーズンズの女の子たちも来てくれてますよ。
今日は忙しいと思うから、席には着かなくていいって、挨拶だけでも先に行っておきましょうか?」

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