【完】さつきあめ〜2nd〜
あの頃欠かさずに行っていた美容室にもエステにも一切通っていなかった。朝日以外の人間とも喋らなかったし、携帯を開かないわたしは外部と遮断した世界で生きてきた。
「気持ちわる…」
メイクをしていない生気のない顔。
それにガリガリの体。
キャバ嬢として働いていたあの頃の自分とは思えない。
そんな風に変わってしまったわたしを朝日は家に置いておいて、毎日のようにわたしを抱いた。
わたしの好きなように生きれ、と突き放すくせに、朝日はこんな風に変わってしまったわたしを見捨てる事はしなかった。
非日常を送る毎日の中で、外部の事が気になりだしたのはこの時期からだった。
光のお店はどうなったのだろう?光自身は?
美優は、綾乃は、はるなはどうしてるだろう。
高橋は心配しているのか、小林はわたしがTHREE出勤していない事に困っていないだろうか。
身勝手な事ばっかりして、携帯の電源さえつけないわたしは自分勝手にも周りの人たちがどうしているのか気になりだしている。
エントランスの姿見の前で数分足を止めて、近くのコンビニへ行こうとエントランスをくぐった時だった。
「さくらちゃん!」
わたしの名前はさくらだった。
そう、あの日シーズンズで名前を与えられた時からずっと。
光が夕陽とわたしの本名を呼ぶとき以外、わたしはさくらだった。
朝日はわたしを夕陽とは決して呼ばない。知っているのか知らないのかはわからない。
けれど、近づいたと思っても、朝日はわたしをずっとさくらと呼び続けた。
そして、この1か月半、朝日以外にわたしをさくらと呼ぶ人物はいなかった。
この日までは。