【完】さつきあめ〜2nd〜
そうだったかもしれない。
光は恵まれた環境で、愛されて生きてきた人。
何不自由なく育ってきて、人から奪うよりも、人へ与える事の出来る人だった。
けれど、それ自体が勘違いだったのかもしれない。
腹違いの兄のいる家で、家事のしない母親がいて、幼い妹をずっと守ってきて、自分の会社を持っている父親の会社を継ぐのが正当な跡取りの義務で、そこに本当に光の欲しかった幸せが溢れていたかなんて、わたしには分からない。

恵まれているからといって、必ずしも幸せであるとは限らない。それをわたしは誰よりも知ってる。

「光、あたしね…!」

顔を上げたら、光の強い眼差しと目が合った。
まるでわたしが今から言う事がわかっているかのように、首を横に小さく振った。
そして星のひとつも映さない真っ暗な空を睨みながら言った。

「俺は’宮沢朝日’に絶対に負けない」

きっぱりと言い切ったその眼差しは、いつかゆりがわたしに負けないと言った目によく似ていた。

「俺は小さな時から、あの人が誰より眩しかった。
自由奔放で、欲しい物にどこまでも素直で、いつの間にか人の違う心の隙間に入ってきてしまうような
あの人の強さがずっと羨ましかった。…俺はきっとあの人の背中をずっと見続ける生き方しか出来ないって思ってた。でも今は違う。
俺は…自分が欲しい物も全部手に入れる。あの人が今までしてきたように。何かを捨てて、何を犠牲にしても、あの人よりも強くなる。
俺はもう…宮沢朝日にだけは負けない」

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