壊れそうなほど。

修羅バンドはなかなか人気なようで、観客席はすっかり埋まっている。仕方ないから、PAの背後の壁際で立ち見することにした。

しかし奇妙な光景だ。修羅場どころか殺人現場みたいな曲を、みなお行儀よく着席して聴いている。なんともシュールだ。

「あれ? ドラム、よく見たら和也じゃね?」

トオルがおれに耳打ちした。耳打ちと言っても、大音量の中だから、多分大声を出しているのだが。

「え、ほんとだ。うわ、あいつ二留?」

和也はおれ達と同学年だが、2年前、単位が足りずに留年した。まだ卒業していなかったのか、何やってんだか。

「まあ、大学マックス8年いられっからな」

「いや、それでもあと2ね…」

答えかけたその時、おれ達の目の前をギターケースを背負った真っ黒な影が通り過ぎていった。
< 117 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop