壊れそうなほど。
暗幕の隙間から控え室に消えたそいつは、見間違いじゃなければ、多分、例の優輝斗だ。……そうか、ライブに合わせて今来たところなのか。へえ、随分と重役出勤だな。
心の中でつい憎まれ口を叩く。まあ、昨日の態度でいい印象なんて持てるわけがない。
それにしても、何故ああも嫌われたのか。あれは人見知りなんてレベルじゃない。
『ふーん、沙奈の彼氏?』
不愉快そうに吐いたあと、おれを睨みつけてきたあいつ。
………あれ? もしかして。
あいつ、沙奈のことが好きなのか?
「トオル、悪い。ちょっと外す」
足が勝手に、控え室へと向かっていた。
たとえ優輝斗が沙奈を好きでも、そんなことどうでもいいはずなのに。
まさか、あいつに沙奈を奪われるとでも思っているのか、おれは。
……ほんと、余裕なさすぎだ。