壊れそうなほど。

俺はとにかく沙奈と啓吾を見ないようにして、特に必要もないのにチューニングを始めた。さいきん現実逃避はもっぱらこれだ。お陰で俺のギター、いつもチューニングばっちり。

幸いなことに、会話はほとんど聞こえない。まあ、聞こえてきた瞬間にギターかき鳴らすけど。

なんなら歌ってもいい。とにかく聞きたくない。

「……ユッキーさん。シゲ、ちょーいい仕事するでしょ」

ちんちくりんが寄ってきて、得意げな顔で囁く。

「あーそーですね」

なにがいい仕事だよ。いい仕事ってのは、アイツを追い返すことだから。なんのための受付?

「控え室にいた沙奈さんに、すぐメッセージ飛ばしたんだー。シゲ的には修羅場になっても面白いけど、まだ早いかなーって」

「……」

まだ早い、ね。わかってるよ、そんなの。
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