壊れそうなほど。

「卒論! すっかり忘れてた! もう、嫌なこと思い出させないでよー」

冗談めかして返す。わたしはどんどん、嘘つきになっていく。苦しい。

「あはは、ごめん。……あ、沙奈。タバコ吸うからサンルーフ開けて」

「あ、うん」

サンルーフに手をやったら、不意に2年前の夏のことを思い出した。

──あの夏、わたしは佑介と別れて、この世の終わりみたいに落ち込んでいた。バンドの練習でもろくに歌えないほどに。そんなわたしを見かねた啓吾が、ドライブに誘ってくれたのだ。

海岸沿いを走るチェイサー。サンルーフが珍しかったわたしは、まるで子供みたいにそこから顔を出した。その瞬間、思い切り強い潮風に煽られた。それがとても気持ちよくて。

その風が、ぜんぶ吹き飛ばしてくれるような気がしたのだ。辛いこと、ぜんぶ。
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