壊れそうなほど。
(11)
「沙奈、あの子に風呂貸したんだってね」
言った瞬間、沙奈の顔色が変わった。まるで、何かやましいことがあるみたいに。
けれど、それはほんの一瞬だった。もしかしたら、気のせいだったのかもしれない。
「……ユキんちのお風呂が壊れて、貸してって頼まれたから」
驚くほど無表情で、淡々と説明する沙奈。これをどう捉えるべきなのか。そして、どう出るべきか。
──風呂の件をおれが知ったのは、ほんのついさっきのことだ。
沙奈を迎えに行く途中で寄ったガソリンスタンドで、ウィンドウを開けて「ハイオク…」まで言ったところで、思わずフリーズした。目の前の従業員がまさかの優輝斗だったからだ。
「……啓吾じゃん」
コイツ、おれより絶対に年下なのに。いきなり呼び捨てにされて、かなりムッとした。