壊れそうなほど。
*****

『へえ、じゃあ無事に助っ人が入ったんだ。よかったね』

電話の向こうの啓吾は、聞き慣れた少し鼻にかかった声で言った。

彼氏であり婚約者の啓吾とは、平日はこうして電話で話すだけ。彼は最近、残業続きなのだ。

かたや、就活からすっかり足を洗った身分のわたし。毎日ダラダラと過ごしていて、申し訳ない気持ちでいっぱいである。

「まあね。すごい無愛想なやつだけど」

『無愛想? 照れ屋なのかな』

「そんな風には見えなかったけどなあ」

わたしをまっすぐ見つめる、ともすれば少々ふてぶてしい真っ黒な瞳。

そういえば、瞳も髪もついでにパーカーも黒で、まるで黒猫みたいだ。

しかも野良猫。こちらをじっと見るくせに、近づこうとするとぷいっと顔をそらして去っていくあの感じによく似ている。

ぜんぜん可愛くない。
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