壊れそうなほど。
「そっか、大変だな」

「まあ、今だけの辛抱だから」

ビールをまたひとくち飲んで、履きなれないパンプスからそっと足を抜いた。

わたしの足は極度の扁平足で、スニーカーとサンダル以外、殆どの靴を受け付けてくれない。

足が痛いのを我慢するのが社会人の義務なら、わたしは恥も外聞も捨てて、自宅警備員になりたいと切に思う。まあ、そうもいかないけれど。

「おれも結構苦労したからなあ、就活」

「へえ、そうなんだ」

工学部出の啓吾《けいご》は、誰もが知っているIT系の大企業に務めている。

大学のバンドサークルで先輩後輩として知り合い、付き合い始めて丸2年だ。

でも、年が3つ離れているから、啓吾が就職活動をしていた頃をわたしは知らない。出会ったときにはもう、彼は内定をもらっていたのだ。
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