壊れそうなほど。
「だって」

少し拗ねたような瞳が、わたしを捕まえる。

なんだか胸がざわつく。落ち着かない。

ユキが、長い前髪を鬱陶しそうにかき上げた。

いつもは髪に覆われて殆ど見えない右目。露わになったそれは、やっぱりわたしを捕まえた。

「だって、沙奈が」

ふたつの瞳に捕えられ、胸のざわめきがさっきよりも大きくなった。なんだか息苦しい。

なのに、目を逸らすことができない。

「……わたしが、なに?」

やっとの思いで言葉を発する。自分の声だと思えないほど、弱々しく掠れた。

「……」

「……ユキ?」

「……やっぱなんでもない」

ユキはボソリと呟いて、またぷいっとそっぽを向いてしまった。寂しい。

──あれ?

ユキの視線から解放されて、ほっとしたのに。

寂しいって、なに?
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