壊れそうなほど。
ただ一緒にいたいと思った。
沙奈が一緒にいる選択をしてくれるなら、それだけでいい気がした。困らせたくなかった。俺が別れろって言わなければ、沙奈は一緒にいてくれる。ならそれでいいって。
でも、そう思えたのは、彼氏だか婚約者だかが架空の人物ばりに想像つかなかったから。全然リアルじゃなかった。
だって、昨日の夜も今朝も、いや、ついさっきまで、沙奈は俺だけのものだった。それだけが、俺の現実だった。
なのに──。
「うん。沙奈の彼氏の新川あらかわ啓吾けいごです。よろしくね」
フルネームなんて知りたかねーし。なんもよろしくしねーし。
無言で睨みつけてやったのに、
「あ、優輝斗くん人見知りなんだっけ」
えびすみたいな笑顔で軽く受け流された。
婚約者の余裕ってやつ?
……ハラワタ煮えくり返りそう。