私たちの六年目
一瞬、なんのことだかわからなかった。


でも、その言葉の意味がわかると涙が出そうだった。


生まれて初めて、男の人から綺麗だと言われた。


ずっと言われてみたかったその言葉を、まさか秀哉に言われるなんて。


すごく嬉しい。


嬉しいけど、でも……。


「こらー。

そんな言葉、冗談でも言ったらダメだよー。

秀哉には、ものすごい美人の彼女がいるんだから」


そうだよ。


あんなに美人の梨華がいるくせに。


綺麗だなんて、そんな言葉。


まるで愛おしい存在を見つめるような瞳で。


恋人に囁くような優しい声で。


私なんかに、言わないで……。


「ごめん。もう本当に行く」


やっぱりダメだ。


秀哉に会うと、つらくなる。


忘れられなくなってしまうから。


そう思って行こうとするのに。


「嫌だ、菜穂……」


またあの日と同じように、私の腕を離さない秀哉。


「何言ってるの?

こんなところを、梨華や梨華のご両親に見られたらどうするの?」


このレストランのトイレは、私と秀哉の席からは死角になっているから絶対に見えないけど。


もしこっちに来られたら、致命的だ。
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